きちんとダラダラ学ぶ会計21(横道・・「原価という言葉の奥深さ」)
こんにちは。草野です。
原価計算に関する問い合わせを頂きました。
今回は、1回完結型なので、文章が長いです。
どんな問い合わせだったか、を書く前に、
原価計算に関して、いろいろ解説します。
(1)原価とは何か
簡単そうですが、実際は難しいです。
後で触れます。
(2)原価計算とは何か
原価を計算すること。
この一言に尽きますが、
適切に「原価計算」の意味を理解している人は、
少ないと思います。
原価計算とは、
会計の世界では、
ある製品を製造するのに、いくらかかったか、計算するための学問です。
詳細は割愛するとして、学問上の基礎的な原価は3つの要素から構成されます。
・材料費
・労務費(人件費)
・経費(水道光熱費等だけでなく、管理部門などの間接費)
重要なのは、2点です。
1点目
原価とは、「製品」を製造するためにかかった金額のこと。
2点目
原価は、「製品」と結び付く言葉であること。
ところが、一般的には、
製品とは無関係な話をするときにも、「原価」という言葉が使われていたりします。
例えば、製品を製造して「いない」、セミナーを収入源としている会社の方が、
うちの会社は、原価が上がってしまい、もうけが出ていない、
などと話すようなイメージです。
つまり、堅苦しいことをいえば、
製品に結び付いていない場合、
原価という言葉を用いることは、誤りです、となります。
ただし、
分かりやすく説明するために、
あえてそういう場面で原価を使っている場合もあります。
そこで、
今回は、(適切とはいえないが)そういう場面で、
原価という言葉を使うときの「原価」について考えていきます。
(3)原価という言葉の使われ方
原価は、製品と結び付いている言葉です。
学問として学ぶ、適切な使い方をする必要がある、
そんな場合は、
要注意です。
ただし、製品の製造をしていない会社でも
会社のもうけ( = 利益 )を把握しようとするとき、
原価計算しよう、という話になったり、
原価計算の結果、〇〇でした、
などという会話が成り立ったりします。
良い悪いは置いておいて、今回の内容を続けます。
今回の核論でもありますが、
原価とは、いったい何を指しているのでしょうか。
製品を製造して「いない」会社で
原価という言葉を用いた場合を、あえてイメージしてみます。
登場する
AさんBさんCさんは、同じ会社の同じ部署で勤務しているとします。
(4)Aさんのイメージ
Aさんは、上司から「我々の部署の原価計算して」と頼まれました。
Aさんは考えました。
この部署の売上は月間300万円
原価は、月間
・人件費90万円
・備品購入経費10万円
合計原価100万円
月間のもうけは、200万円
と答えました。
(5)Bさんのイメージ
Bさんも同じように上司から頼まれました。
売上は月間300万円
原価は、月間
・人件費90万円
・備品購入経費10万円
・この部署のフロア家賃30万円
合計原価130万円
月間のもうけは、170万円
と答えました。
(6)Cさんのイメージ
Cさんは答えました。
売上は月間300万円
原価は、月間
・人件費90万円
・備品購入経費10万円
・この部署のフロア家賃30万円
・この部署のコピー機リース5万円
・この部署の社用車リース10万円
・この部署のフロア水道光熱費5万円
・この部署のフロア電話通信機器代3万円
合計原価153万円
月間のもうけは、147万円
と答えました。
(7)上司の回答
上司は言いました。
「皆さんの回答は全て月間のもうけが100万円を遥かに超えていますよね」
「いや、実は、社長からは、あなたの部署の月間のもうけは、30万円といわれていて、分からなくなってしまったんだ」
(8)月間のもうけが30万円
月間のもうけが30万円、という場合の内訳をみてみましょう。
売上は月間300万円
原価は、月間
・人件費90万円
・備品購入経費10万円
・この部署のフロア家賃30万円
・この部署のコピー機リース5万円
・この部署の社用車リース10万円
・この部署のフロア水道光熱費5万円
・この部署のフロア電話通信機器代3万円
・この部署への本社管理部門配分額117万円
合計原価270万円
月間のもうけは、30万円
(9)管理費等を配分するという考え方
上記(8)を見てビックリした方もいると思います。
もちろん、偽りの金額を使った配分はダメです。
例えば、本当の配分額は50万円なのに、100万円配分するとか。
ただし、
管理費等をもうけの計算に原価として配分する考え方は、
経営者の視点に立った場合、
「間違えなく正しい」と思います。
この配分する考え方を、「原価計算では、配賦(はいふ)」と呼びます。
聞き慣れない言葉だと思いますが、実際の原価計算でも用いられている正式な考え方です。
話を戻し、この配分の考え方が正しい理由について説明します。
ポイントは、経営者目線です。
経営者は、会社が倒産しないように、収支計算しなければいけません。
従業員の給与を削ったほうがよい、という話ではありません。
会社にとって増えるお金のほうが多くなければ、
給与を含む支出を上げられないという意味です。
減るお金のほうが多ければ倒産するからです( 当たり前ですが )。
そう考えたとき、先ほどのAさんBさんCさんの回答をどのように捉え直すことが適切でしょうか。
本社・本部・管理部門いろいろ呼び名はあると思いますが、
要は、売上に直接貢献しない部門にもお金がかかります。
でも、その部門は、従業員の給与計算や各種手続きなど、会社運営に欠かせません。
(10)管理費等の配分計算
先ほどの部署は、月間売上が300万円という事例でした。
仮に、月間300万円の売上部署が
10あったら、
その会社全体の月間売上は、3,000万円です。
売上には直結しない管理部署の維持費が
月間1,170万円だったとします。
これを10の売上部署に配分すると、1部署あたり月間117万円となります。
これを考慮しないで、
売上部署ごとの「給与をどんどん上げて」しまえば、
結果的に、管理部署の維持費が払えずに、会社が倒産してしまいます。
このように、
原価は、管理部署の配分額まで含んで構成されています。
この考え方を「ある程度は理解」していないと、
経営を継続するのに必要な数値確認を誤るだけでなく、
従業員への説明もきちんとできず、
余計な感情的反発を生んでしまいかねません。
(11)おまけ1( 管理費等の内訳 )
配分の考え方は、間違えなく正しい、と書きました。
ただし、配分の対象に、何を含めるのか、
その範囲については、
見解が分かれるでしょう。
なぜ分かれるのか。
それは、会社をどのように位置付けるのか、
経営者の考え方がそこに反映されるからです。
例えば、
会社は従業員のためにある、会社の借金は私が全て返すと考える経営者は、
配分の対象となる範囲から、会社の借金を除くでしょう。
各部署に配分する金額が軽くなるので、その分、各部署の利益が大きく計算されます。
例えば、
会社は、地域社会に貢献するためにあると考える経営者は、将来かかるであろう地域社会への投資額まで配分の対象に入れるかもしれません。
例えば、
会社は自分(経営者)のために存在すると考える場合は、経営者に有利になる内容を配分の対象に入れるかもしれません。
いや、会社を創設し、借入もし、多大なるリスクを負ってきているのだから当然と考える場合もあるでしょう。
なお、
原価には、2つの考え方があります。
・いわゆる基準の制約を受けるもの(学問上および実務上の正しい原価)
・基準の制約を受けず、会社ごとに決めるもの(広義の管理会計においてその会社で原価と称しているもの)
今、書いているのは「後者」の原価です。
そのため、原価について、経営者ごとに異なる考え方が存在する余地があるのです。
ここで、上記(8)で登場させた本社管理部門配分額117万円について、
考えてみましょう。
この中には、
・経営者の報酬
・顧問税理士の報酬
・顧問弁護士の報酬
・顧問社労士の報酬
・各種運営上の保険支出
・各種運営上の免許更新維持費
・管理部門家賃等
・広告宣伝費
・採用活動費
・福利厚生費(今は少なくなっているでしょうが、代表的なのは社員旅行や忘年会などの支出)
・管理部門の従業員給与(人事・総務・経理・法務・企画管理など会社ごとにさまざま)
これに、
会社全体の 借入金の返済額 や 法人税や消費税その他税金 を含める場合
もあるでしょう。
もちろん、この返済額等を配分対象とした場合、各部署の原価は上がります。
つまり利益は小さくなります。
しかし、良い悪いは別として、
返済額等を除いて配分した結果、
各部署の原価が下がり、つまり、利益が大きく計算されて、
その分、各部署の給与を上げて、会社が倒産。
これは明らかに計算ミスでしょう。
従業員の視点に立った場合、返済額等をどうするのか、
反論があるでしょうが、
そうならないために、今回の最後の論点があるのでしょう。
(12)おまけ2( ガバナンス )
原価は、誰のために存在する言葉なのか、
そんなところにまで派生してしまいます。
行きつくところ、ガバナンス(統治・管理・支配)の問題につながると考えています。
原価について話をしていますが、
原価についても、どういう内容を盛り込むか、
つまり、経営者とか従業員とか、
何をもって、どちら寄りの見解とするのかは、
非常に難しい問題
であるにせよ( 例えば、従業員寄りの方針を実行して会社が倒産した場合、それは本当に従業員寄りの方針だったといえるのか )、
原価に入れる内容によって、どちらかに偏ることがリスクだとすれば、
それを牽制したり、監督したりするのが、例えば、取締役会の存在だったりするでしょう。
ただし、牽制とか監督とか書きましたが、
そういうことを気にするあまり、意志決定が遅れるという弊害もあるはずです。
つまるところバランス感覚なんでしょうね。
経営者だけでなく、会社に関連する一人一人の。
かなり雑な結論であり、
ではバランス感覚ってなに?
尽きない話をしてしまっていますので、今回はこれぐらいにします。
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